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2014年7月13日 (日)

Enginner from S company

「先生、また、302号室の患者さんが暴れています」
「また、あの人か。なんだって、いつも、こうなんだ」

ターミナルケアを歌い文句にしている病院、ここには直る見込みのない
患者が入院、死ぬまでの期間をゆっくりと過ごす。
誰もが若いころの思い出を近親者を語り合いながら、ゆっくりと
その日の来るのを待つ。

それまで、医療機器につながれ、まるで、配線だらけのロボットの
ようにすごしてきた人たちが、ここでは人間らしさを取り戻し、
医薬品は研究的な治療のためではなく、苦痛を取り除くために
使われる。

302号室の患者。
彼は、身寄りがなく、終身医療保険の会社が送り込んできた。

すでに、意識は混沌としていて、時々大声を出すばかり・・・
しかし、時々意識が戻ると、視力はしっかりしていて、
なにやら気に入らないものを見ると、大声を上げて手足をばたばた動かす。

「しょうがないな、今、どこにいるんだ」
「ラウンジに車椅子で移動させた所なんです。
すこしでも、他の患者さんと交流できればと思って」

医師がラウンジに行って見ると、302号室の患者は一応おとなしくなっていた。

「いったい、何があったんだ」
「わかりません。ただ、テレビが映らなくなったので、メンテナンス部の
人が、チェックしに来たんです。そうしたら、突然暴れ始めて・・」
と、若いナース。

「いやー、びっくりしました」と、メンテナンスの男。

「テレビが映らないって言うんで、Airの方ならなんともなくて、
ネットのほうが映らないんで、チェック画面を出してどうなってるのか
見てたんですが、よくわからないので、ネット配信会社へ電話して
指示してもらって、いろいろ確認してもらってたんです」

「で、テレビは直ったのか」

「いやー、私には、最近のハイテク機器ってやつはわからなくて、
配信会社の人が、こっちへ向かっているんです」
「早くなおしてもらわないと、皆さんが楽しみにしている
水戸黄門がはじまっちゃうし」

そのときだった。
若いナースがそばについて、なにやらたわいもないことを話しかけて
なだめられていた302号室の患者が、突然自分で車椅子を動かして
近づいてきた。
しきりとキーボードを指差す。

「えー、まさか、キーボードをとろうとしてるんじゃ」
「君、すまんが、そのキーボードを渡してやってくれないか?
どうせ、今、動作しないんだろ?」
「いいですよ。でも、それでどうするってんですか?」
「いいから」

302号室の男はキーボードを受け取ると、抱きかかえるようにして一本指で
操作し始めた。

「あれ、何やったんだろ? こんな画面、見たことないぞ」

ネットテレビは、突然デバッグモードになり、真っ黒なウインドウが現れた。
302号室の男の操作が、その画面上にコンピュータ言語の文字を並べる。

「あれ、このコマンド、配信会社のセミナーで習ったやつだ」

メンテナンスの男が声を上げている間に、ネットテレビは再設定され、
画面がリセットされ、以前のようにネットにつながった。

老人たちが楽しみにしていたネット配信の時代劇が始まると、
皆、テレビの周りに集まってくる。

更に、302号室の男が操作すると、画面の明るさが変化して
自動映りこみ防止モードになった。

「あれ、このモード、ちゃんと動くんだ。メーカーの人が
設置に来たとき、いくらやってもうごかなかったのに」

メンテナンスの男がいうまでもなく、調子がいまいちだった
ネットテレビは、だれの目にも、今、きちんと動いていることが
よくわかった。

やっと現れた、ネット配信会社の人が、なにもすることなく
帰り、やがて夕食の時間になり、そのあと、いつもなら自室に
もどってしまう老人たちも、その晩はラウンジに残っていた。

302号室の男は、ただ、だまって穏やかな顔で、テレビの周りの
皆の様子をながめているだけだった。

翌朝、早朝担当の看護士が、302号室の前を通りかかり、
ふと、胸騒ぎがしてドアをあけて中をのぞいた。
そこにはおだやかな顔をして、永遠の眠りについた男の姿が
あった。

その日の夕食後のラウンジの話題は、もっぱら302号室の男のことだった。

「なあ、あの人、302号室の。なんて名前だったっけ?」
「えーと、ねえ、どなたか、知ってらっしゃる?」
「あの人はね、有名なSって会社のネットテレビの設計の
中心人物だった人だよ」
「つまらん派閥抗争で、こころざし半ばで退社させられて、
当時は経済紙なんかにわりと取り上げられたんだ」
「心労なんだろうな。倒れてしまって、それを一人で看病していた
奥さんが過労で先になくなってしまって、一人、ここへ来たんだよ」

「なんでまた、あなたはそんなに、お詳しいの?」
「そりゃ、昔の上司だもの、詳しいですよ・・・」

(おしまい)

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