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2008年9月21日 (日)

AIBOとおばあちゃん

AIBOって、知ってるよね、これは、AIBOと、おばあちゃんのお話

「いやだよ、養老院なんて」
「おかあさん、養老院なんて、今時言いませんよ、老人ホームって言うんです。」
「それに、おかあさんにすすめてるのは、その辺の老人ホームとはちがって、
 お年よりのためのマンションなのよ。」
「マンションでもオクションでも、いやなものはいや、わたしゃ、
 この、家にずっといたいんだよ。お父さんが苦労して建てて、おまえたちと
 暮らした、この家にね」

嫁いでいった娘たちが、いくら勧めても、おばあちゃんは、聞かなかった。
大正生まれの夫と見合い結婚して、苦労して小さな家を手にいれ、
そこから娘たちは、それぞれ似合いの相手の元へ嫁いでいった。

今、夫に先立たれたものの、思い出がいっぱい詰まっているこの家から
よそへいこうなんて、真っ平だ。

「そんなこと言ったって、私たち、離れてるんだから、お母さんが
 今度倒れたら、どうするのよ。」

「大丈夫よ、この間みたいに、コロちゃんが知らせてくれて、
 先生が来てくれるから。」

そう、コロちゃんは、AIBOだ。
それも、シルバーエイジ スペシャルバージョンの。

飼い主の脈拍、血圧、呼吸・・・コロのセンサーは、常に監視
していて、異常があると、緊急無線で最寄の病院、近親者、
さらには消防や警察に通報する。

「だから、私の心配より、自分たちの心配をしなさい。
 お金だって、貯金と年金でなんとかなってるんだから」

と、いうわけで、おばあちゃんの一人暮らし、いや、一人と一匹?
暮らしは続いた。

「キュイーン キュイーン」
「あら、コロちゃん、お腹すいたのね、最近食べ過ぎじゃないの?
いっぺん長野のクリニックに行かなきゃね。」

おばあちゃんは掃除機をかける手を止めてコロに話し掛けた。

そのとき、ちょうど水戸黄門の再放送の時間だった。
コロは、いつもどおり、リモコンでTVのスイッチを入れた。

「あらあら、もうそんな時間なのね、先週の続きを見なくちゃ」

おばあちゃんは、掃除機を止めるとTVの前のソファーに座った。

(充電してもらうのは、水戸黄門の後でもOK)
コロはバッテリー残量を確認すると、ローバッテリーアラームは
出さないで、ソファーの横に座った。

ときどき、近所のAIBOたちからの信号が入る、
第5世代と言われるコロたちは、無線LAN技術で情報のやりとりを
する。
火事とか地震などの情報を交換するのだ。
(今日は平穏無事だな)

水戸黄門が終了すると、ばあちゃんは掃除機のスイッチを入れた。
AIBOの「充電してよ」の声は、少し耳が遠くなったおばあちゃんには
聞こえない。

そのとき、掃除機をかけていたおばあちゃんの体が崩れ落ちた。

コロにはすぐには異常はわからなかった。
脈拍も、呼吸も、血圧も正常だった。
でも、おばあちゃんの体のどこかで大きな異常が発生していた。

第5世代のAIBOには、自己充電機能がある。
ぎりぎりまで待っても充電してもらえないとき、自分で充電器の
ところまで、緊急バッテリーで移動して、充電するのだ。

コロは充電器を目指した。でも、掃除機が邪魔してたどりつけない。
部屋のなかを一回りしてみて、人間に充電してもらうしかないと判断した。

だんだん電気が無くなってくる中で、コロはおばあちゃんの異常に
気が付いた。これまでの学習では、こんなに長くほおっておかれる
はずはない。

コロは緊急信号を発信しようとした。
でも、電気をたくさん使う緊急信号を出すのは、今のコロには無理だった。
緊急バッテリーも、残り少なくなっていく。

コロはご近所のAIBOたちに助けを求めようとした。
電波が届かない。

コロは自分の持っている電力をすべて出し切って、最後の信号を送り出した。
それが、コロ自身にどういう結果となるかをわかったうえで・・・・・・

「おかさん、気がついた?」
「よかった、もうだいじょうぶよ。」

「ここは?」

「病院よ。大手術だったけど、もう大丈夫。コロちゃんが助けてくれたのよ」

「コロ?コロにご飯あげなきゃ」

「もう、おかあさんたら、いきなりコロの心配なんかして。」

「コロはどこ?」

娘たちは困ったように顔を見合わせた。

「コロちゃんも入院してるんです。」
と、長女の夫がフォローした。

「そう、長野のクリニックにいるから、すぐよくなりますよ」
と、次女のフィアンセ。

そのころ、長野県のAIBOクリニックは大騒ぎだった。
「緊急バッテリーは、通信回路には電源供給しないんじゃなかったのか」

まわりからドクターと呼ばれているAIBOの生みの親の工学博士は
東京から駆けつけるなりこう言った。

「それが、わからないんです。とにかく、たまたま通りかかった人が
連れていたAIBOが、突然緊急信号を発信して、このAIBOの飼い主の
異常を中継したんですが、なぜ、ワークグループのちがう、
通りすがりのAIBOが応答したのか、なぜ、このAIBOが自分のメモリーを
保持するための電力まで放電して通信したのか、謎です。」

「それは、きっと・・・」

ドクターは、だまって視線を外に向けた。
安曇野の緑のむこうには日本アルプスが見える。

「ともかく、可能な限りのメモリー修復をしよう」
「飼い主のご老人はたすかったんだろう?」
「はやくこの仔を届けて、元気になってもらわないと」

ドクターの声に、エンジニアたちはいっせいに作業を開始した。

「おかあさん、しっかりリハビリしないと、歩けなくなっちゃいますよ。」

「いやだよ、歩けなくったっていいよ。コロちゃんは帰ってこないし」

「おかあさん、そんなことばっかり言って・・」
「看護婦さんも迎えに来てくださってるんだから」

長女がリハビリ担当のインストラクターになにか言おうとしたとき、
病室のドアが開いた。次女のフィアンセだ。

「コロちゃんが帰ってきましたよ」

「コロちゃん」
おばあちゃんは、コロを抱きしめた。
「コロ、コロ」

コロは呼びかけられると、首をかしげて反応する。
でも、いつものコロのように愛嬌をふりまかない。

「コロはね、お母さんを助けるために、全身の力を使い果たしたので、
 せっかく覚えたいろんな芸を忘れちゃったんですよ」
「でも、昔覚えた芸は、また教えれば、思い出すのも早いんですって」

突然、おばあちゃんは長女の手を強く引いた。
「おこしておくれ、リハビリでもなんでもやって、コロちゃんに
 早くおもいだしてもらわなくっちゃ。」
「歩けなくちゃ、コロの相手もできないしね」

「おかあさんたら・・・」

「キュイーン キュイーン・・・・」

<おしまい>

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